2010年8月1日日曜日版の日経新聞にMITの名誉教授であるレスター・サロー氏のインタビューがのっていた。
奇しくも、中国経済が日本経済を追い抜いたという記事がでたタイミングで、世界の経済成長は今後だれが担うのかというのが内容。
その中で、日本についてのコメントがある。「なぜ内需が広がらないのか」という質問に、「イノベーション(技術革新)がないからだ。日本の消費者はアップルのiPadには行列するが、ソニー製品に並ばない。・・・・日本はものまねが得意でここまで追いついた。追いつくにはイノベーションが欠かせない。・・・」と教授が答えている。
ITの世界はイノベーションとイミテーションの追いかけっこである。誰かがイノベーションを起こすと、すごい速度でイミテーションが起こる。そうすると瞬く間にコモディティ化が起こり、きちんとした市場ができあがる前に市場が枯れる場合がある。ただ、イノベーションが本物であり、本当に市場が必要とするものであったのであれば、市場が本当に必要とするものを提供し続けることのできた企業だけが生き残り、市場を形成し続けることがある。
以前のアフィリエイト市場もそのような動きに近かったのではないかと察する。
レコメンデーションとは、間違いなくITにおける一つのイノベーションである。個別の状況あるいはユーザーにベストマッチな内容を表示するというメカニズムは、シンプルなように見えて実は技術的には奥深いものがある。
個別にベストな内容を表示するためには、ベストな内容(コンテンツ)を膨大な情報の中から選び出さねばならない、つまり、フィルター(濾過)しなければならないということで、フィルタリング技術がコンテンツを見つけ出されるために使われるようになった。
また、さらに「よりマッチした」コンテンツを見つけ出すために、好みの似た人同士がすでに選択したコンテンツをベースにする協調フィルタリング技術が出現し、この技術をベースに驚くほど多くの種類の協調フィルタリング技術が今日レコメンデーションに使われている。
大きな分類をすると、さきほどの好みの人同士というくくり(AさんとBさんは買ったものが近いので、Aさんが買っていてまだBさんが買っていない商品をBさんにおすすめする)に対峙して、並買された商品ベース(つまりこの商品を買った人はこちらの商品も買ったのでこの商品をおすすめします)の協調フィルタリングがある。こちらの方が人ベースよりもデータがたまりやすいという利点があり、アマゾンが使っていることでも有名である。
というように、現在様々な「協調フィルタリング」が世の中には存在しているが、この名称ほど実は正しい理解がされていないものはない。
「協調フィルタリング」とは例えば、「ロボット技術」とかいってしまうことと変わらないのである。そのあとに、「どんな」がつかなければ、単なる一般名称、しかもかなり大ざっぱな、広義な内容を述べただけの言葉にすぎないのである。
現在日本に見られるほぼほとんどのレコメンデーションは、「協調フィルタリング」をベースとした技術で作られている。商品やコンテンツ、または人の類似性に注目して、次に提示するものを表示するという技術であればいかなる(異なる)マーケティング的な呼称を使っていても、「協調フィルタリング」の大分類に仕分けすることができる。「協調フィルタリング」は広義の呼称に過ぎないということを、レコメンデーションを導入する企業側はもっと認識することで、「レコメンデーション入れてみたけど思ったような結果にならなかった」というニーズとのミスマッチを避けることができる。
いまや一般的になったレコメンデーションであるが、そろそろ次のイノベーションが必要な時期ではないかと思っている。我々が、2003年にレコメンデーションを日本で初めてASPサービスとして提供して以来、多くのレコメンデーションサービスが世の中に出現した。しかし、我が社を含めて、本当に新しい次のレコメンデーションの形を提案できているところは、まだない。
新しい次のレコメンデーション、すなわち、次のイノベーションを起こすことが、我々シルバーエッグのミッションだと考えている。