オンライン、オフラインにかかわらずキャンペーンでない限り、ふらった立ち寄る一般客が最初からものすごく「期待」して来店するということは少ないと思います。裏を返せば、あまり期待してなかったお客様にその期待を上回る経験を提供することができれば、そのお客様は間違いなくそのショップのファンになり、他のショップと大きな差別化ができるのです。
サービス産業において、このお客様の「期待を超える」ことが非常に重視されています。マニュアルどおりの接客サービスではなく、「ホスピタリティ」が注目されているのもそのためです。「ホスピタリティ」とは一般的に「おもてなし」と訳されますが、これは単にお客様をもてなすという範疇をはるかに超えるものです。たとえば、レストランに予約をして行った時に、こちらが小さい子供がいることがわかってその時点で店側が配慮してくれて個室に変更してくれたといったようなことも良い「ホスピタリティ」の例といえると思います。
この「期待を超える」という要素がますますオンライン、オフラインを含めた小売店にも必要になってきていると思います。これを実現するための重要な要素にカスタマー・エンゲージメントというものがあります。エンゲージメントとは、「がっちりと巻き込む、引き込む」という意味で、カスタマー・エンゲージメントとは、「お客様の心をつかむための一連のマーケティング活動」ととらえると理解しやすいです。
実店舗でのカスタマー・エンゲージメントの例として、こちらのブログに掲載されていたものをご紹介します。このブログのライターの奥様は、自分でアートや家具を販売しているショップを経営しているのですが、店舗にてお客様にタブロイドで商品紹介をしたいと思い、アップルストアにいったそうです。iPadとそれをおくスタンドも買う予定でしたが、自分の店にあうデザインのスタンドをアップルストアで見つけられる「期待」はしてませんでした。ところが、彼女に応対した若い男性の店員は、アップルストアにおいてあるプラスチックのスタンドでなく、木のスタンドを彼女が探していることを知ると、自分のiPadをおもむろにだし、そのようなスタンドを販売しているウェブストアを出して彼女のニーズにあったものをその場で注文してくれたということです。さらには、iPadの使い方セミナーがちょうど始まったところだったので、そのセミナーにもサインアップしてくれたということです。もちろん彼女の中のアップルストアに対するロイヤリティがものすごくアップしたことは間違いありません。
このように顧客の期待を超えるための重要な要素に、ショップで直接顧客に対応する販売員がどれだけプロアクティブな対応ができるかとことがあります。顧客のニーズや好みを良く知って、それにあったパーソナルな対応ができるかどうかで、カスタマー・エンゲージメントの質が変わってくるのです。
実店舗では、販売員の教育によってこのようなカスタマー・エンゲージメントは実現できるのですが、さて、販売員のいないオンラインショップではどのようにしたらよいのでしょうか。その答えに「レコメンデーション」というものがあります。「レコメンデーション」は、そもそも、単なるおすすめをして購買意欲を促すだけのものではありません。実店舗であれば、店員が顧客との対話の中でその顧客の好みを把握していくところを、レコメンデーションエンジンが、顧客のウェブ上の行動履歴から個別顧客の好みを把握し、あたかも店員が個別の顧客にあったニーズにこたえていくかのように、一人一人のお客様にあった商品を提示するというものなのです。
現状では、通常サイトの商品詳細ページでアイテムの横に「おすすめ」という形で枠にいくつか表示されることが多いのですが、今後、それだけでなく、人間の店員ができるような”パーソナル”な応対をレコメンドエンジンがオンラインショップで実現していくことになれば、オンラインショップでも「期待を超える」マーケティングがより有効的に実現していけることと思います。